GREEN LIVING SPACE(book)

人生の厳しい冬を前にして　いっとき輝いたような　
日　双枝はそれを六歳の秋　父母に連れられて行った　照葉がたとえようもなく美しい　石の河原として経験し終生忘れられない思い出とした

執政との意見の食い違いから　いさましく退身した父親の素平も　今では　娘を女郎として身売りさせるほど落魄していた

どこを見込まれたのか　親の代からの浪人で　武士とは名のみの　世渡りばかりを考えている織之助

素平は織之助に金までやって　娘の様子を確かめようとする

他人の苦痛に染まるほど馬鹿らしいことはないと　醒めた心の織之助が　双枝の　朱に交わりながら染まらないどこか凛とした姿が気掛りで　その憂鬱な話に付き合わされる

双枝に食べさせたいつもりで頼んだ台の物も　来たのは己の分だけで　”おなか　いっぱい”とあまりに堂々として　見え透いた嘘に　自分の歪んだ根性をつねられたような気にさせられる

厳格だが安穏な世界に生まれた女が　苦界に身を落としながらも　心の中に哀しいほど揺るぎのない　元の世界を持ち続けているのだ

そんな双枝を　素平は厳しく躾過ぎたとうろたえ　今になって　心と腹は
別物と言い出す
鼻白む織之助は素平に　年季が明けても借金が残ると告げて茫然とさせる

そうした中　妻女を亡くした素平は　以前とは違った落ち着きを見せていた

そんな折　例年にない暴風雨が　素平や織之助を無一文にした

ただ蒙昧なだけの武士であったと悟った素平は　旧主の藩邸で　割腹して果てる
それは三十両という厚情と引き換えになった
素平をそこまでさせたのは　結局　遠い昔に一家が分け合った　河原の光景であるように織之助には思えた

その双枝は　妓楼が手入れを受けて　行く方知れず
折角の三十両を手に　織之助は憤然とする

素平の金を借りて始めた商売が　躓いても恐れないと思えるようになってから自然と弾みがついて　今日も　柳原の床店の権利を譲り受ける話でやって来ていた

新涼の爽やかな夕暮れ　五間ばかり先の団子売りの屋台　じっと見つめる
四　五歳の娘　幼い割りに頬の膨らみが乏しい　しかし　きりりとした娘の横顔にどことなく近しさを覚える

遠慮はいらないという団子に　首を振って後ずさり　うしろ手にしながら
はっきりと言った
”おなか　いっぱい”
織枝というその娘の母親は　一月前に病で亡くなっていた
曖昧ながら出自を　かかさまは武家の生まれだといい　だから　意地汚い真似をしてはならないと　母親に教えられたのだという

母親が双枝かどうかは分からない　夜鷹にまで身を落として死んだことになるから　願わくばそうでないと思いたい
だがようやく辿り着くところへ着いたような気持ちで
”わたしはおまへのかかさまをよく知っているよ　それは潔い人だったね”
”この眺めをよく覚えておくんだよ”と言いながら　自分自身にも支えとなるものを見つけた安堵に　心が緩むのを感じた

無心に団子を頬張る娘も　じっと川面を見つめる織之助も　いつしか湛々とした安らぎの中にいた　　

元　障害競馬のチャンピョンジョッキー　シッド・ハレーは　落馬
事故でケガした手を　探偵の仕事で無くした
それも今は　義手の電池を　無意識に交換できるまでになっていた

人目を避け　変装までして　ローズマリーが訪ねてくる　馬の不振
は珍しいことではない　それを　細工されてぃるのだと訴える

馬主のフライアリ卿は　シンジケートが人集めに名前を利用している
といい　自分の馬のレースも調整されているという

それが仕事の　ジョッキークラブ部長　ルーカスからは　不正を働い
ているらしいメンバーを　内密に探ってほしいと頼まれる

そんな折　義父チャールズ・ロランドから　シッドの別れた妻ジェニ
イが　詐欺罪で告訴されそうだと電話がくる

前の同僚　チコ・バーンズの応援を得る

引退を余儀なくされた馬は　いずれも心臓が衰弱していた

いつもそうだ　シッドがこんな風に動いただけで　悪人は　身の破滅だと思い込み　先制攻撃を仕掛けて自ら悪の存在を告知する

トレヴァー・ディーズゲイトが　銃で右手を吹き飛ばすと脅す　誰が抵抗できよう　言われるままにフランスへそして　深い悔恨

ギニーのレースは惨めであった　”トライナイトロは一対一の断然人気でスタートした　-　そして　しんがりで入った”

シッドは崩壊寸前で　恐怖に打ち負かされるのはご免だと　立ち直る

詐欺で使われたメイリングリストは”みんなの骨董品”であった　また　ニコラス・アッシュの残した本から　彼が気球の冒険家ジョン・バイキングのいとこ　アボットだと突き止める

死んだ馬の解剖から　心臓の衰弱は豚の丹毒が原因だという　判らないはずだ
今は　大げさにしなくても　馬の尻を叩くだけで注射できるそうだ

馬主で牧場への出入りはフリーキップ　馬の尻を叩くのが好きな賭けやのトレヴァー　弟が製薬会社のワクチン研究所で働いている

テープレコーダーのスイッチを押して　トレヴァーとの約束を決定的に破り　ジョッキークラブに告発する

キャスパー夫妻には　まだ間に合うトライナイトロの治療薬を贈って　許しを得る

油断であった　ゴロツキの雇い主ピーター・ラミリーズに捕まり　死ぬ思いをする

こんども”つねに事件を解決するという評判を得て　その評判が現実より過大に取られている”それが原因だ

ラミリーズにやられながらも”負けない”満身創痍の体をベットに横たえて　ジェニイに　ニッキーを見つけたことを話す
ジェニイは　そんな弱音を吐かないシッドに耐えられなかったと表白する　後戻りのできない和解か

ラミリーズや不正を働いているジョッキイクラブのメンバーという囮に騙されていたが　ラミリーズの命令に従わないゴロツキで　真の犯人を見出す

復讐で待ち構えていたトレヴァーは　”神経のない”シッドに　“お前の恐れるものは何なのだ”と　諦めざるをえなかった

　